蓄積ゼロからの文学フリマを目指す。部数と在庫に胃を痛める。

9月13日(日)に開催される「文学フリマ大阪」に、ご縁があって出品させていただくことになりました。

話題を知覚したのが6月19日。そこから9月中旬の開催日に向けて、物理的な一冊の書籍(文庫本)として持参するのが今回の目標です。

……と言っても、事前に書き溜めていたブログ記事やストック原稿なんて一切ありません。完全にゼロからのスタートでした。

出展料を払い、書き溜めた原稿もないまま締め切りだけが日に日に迫ってくる中、頭をよぎるのは「結局、いくらかかって、何冊刷って、何冊売れるんだ?」という、めちゃくちゃリアルなお金と在庫の恐怖です。

1. 蓄積ゼロを埋めるキャッチボール

過去のストックがないため、とにかく書いて書いて書きまくるしかありません。

スマホやポメラを使い、日常の断片や過去の記憶、築35年の中古住宅でのリノベDIYの失敗や仕事でのモヤモヤを、推敲もせずに数千字〜1万字単位の「ぐちゃぐちゃな長文メモ」として書き吐き出します。

それをそのままAIに放り込み、 「この雑多なメモから、核になりそうなテーマと構成の骨組みを抽出して」 と頼む。

立ち上がってきた構成案を見て、「あ、これを書くならあの時の話も書かな」と次の記憶が呼び覚まされ、さらに追記した長文メモを投げつける。

「書いて、放り込んで、整理させて、それを見てまた思い出して長文を書き殴る」という、終わりのないキャッチボールです。毎日大量のテキストと向き合い続ける作業は、終わりが見えない疲労感があります。

2. 無ければ作る 自作PDFコンパイラ

文章の執筆自体が初めての作業ということもあり、成果物(紙の本としての仕上がり)がイメージできないとモチベーションが続きません。

世の中にはインデザインやフリーの入稿ツールが存在しますが、「自分の作業環境(Antigravity CLI)の上で、原稿テキストから最終確認のPDF描画までを一貫して行いたい」というこだわりと単純な好奇心から、Pythonで原稿を直接A6文庫サイズのPDFに組み上げるスクリプトを自作することにしました。

HTML/CSSの表現力をベースにして縦書きの組版を行い、ボタン一つで180ページの文庫本PDFが立ち上がる仕組みです。

……しかし、ここでも泥臭いトラブルが発生しました。

出来上がったデータを試し刷りサービスへ投げ、手元に届いた1冊の冊子を開いて絶句しました。ページが開く方向が逆(左開き)になっていたのです。

日本語の縦書き本は「右開き(右綴じ)」でなければならないのに、Web技術ベースで組版を行っていたため、デフォルトの「左開き」で書き出されてしまい、表紙をめくると一番最後のページ(エピローグ)から始まってしまうアベコベ本が爆誕してしまいました。

さらに、紙の本特有の「ノド(ページの内側の食い込み)」の余白計算も一筋縄ではいきません。余白の設定を1ミリ間違えれば文字が本の中央に消えて読みづらくなり、原稿の文章を1行直して再コンパイルするだけで全体が181ページに溢れ、面付けの計算と目次のページ番号が全滅する。

自作コンパイラと格闘しながら深夜にPDFを何度も確認し、執筆とはまた別の冷や汗をかいています。

3. 手元の現場合わせ

作業環境では、手元にある素朴な道具たちに助けられています。

メインPCのデスクトップを汚さずにこの自作コンパイラを回したかったため、メルカリで12,000円ほどで譲ってもらった型落ちのMac miniを部屋の隅に置いています。目立たない場所で静かに重いPDFコンパイル処理をこなしてくれる、とても愛着のある相棒です。

一度だけ、自動生成された数万個の一時ファイルをGoogle Driveが律儀にすべて同期しようとして、ストレージ容量の限界でMac miniがカンカンに熱を帯びて応答を止めてしまったことがありました。それも作業フォルダを同期対象外へ移し、機嫌を取り直して復帰させました。

また、文章の書き出しには「ポメラ(DM200)」を使っています。 長めのファイル名をつけると文字化けを起こす持病があるため、短縮IDで管理しつつ、今でも手動で慎重に同期を行っています。完璧でスマートな自動化とはいきませんが、こうした「手元の現場合わせ」も含めて、道具を使っている手応えを感じています。

4. サンプル1冊2,500円。部数・収支・在庫リスクの生々しい恐怖

そして、いよいよ原稿が形になってくるにつれて「現実のお金」の問題がのしかかってきます。

レイアウト確認用に1冊だけサンプル印刷(試し刷り)を注文したのですが、たった1冊本にするだけで送料込みで約2,500円が飛んでいきました。画面上のテキストを紙にするだけで、この出費です。

「じゃあ本刷りは何冊刷るんだ?」という問題に直面し、印刷所の見積もりシミュレーターの前で頭を抱えることになります。

176ページの文庫本を10営業日コースで刷る場合、各種割引を使っても、

  • 10冊:約5,740円(1冊あたり約574円)
  • 20冊:約8,570円(1冊あたり約428円)
  • 50冊:約16,860円(1冊あたり約337円)

50冊刷れば1冊あたりの単価は下がるものの、約1.7万円という金額と「もし売れ残ったらどうするんだ」という恐怖を考えると、流石に手が出せません。

画面を見つめながら、「……20冊で8,500円(手数料込みで9,000円強)。初参加の自分には、これくらいが現実的な落としどころ(現場合わせ)か」と、胃を痛めながら着地点を探るハメになりました。

  • 「1,000円で売るとして、何冊売れれば出展料と印刷代が回収できるのか?」
  • 「もし20冊刷って半分以上残ったら、この家にそのダンボール(在庫)をずっと抱え続けるのか?」

「本を作って売る」というのは、綺麗事ではなく「自分が刷った部数と、残るかもしれない在庫の山」という物理的なリスクを背負うことなのだと痛感しています。

5. 決まらないタイトル

部数の計算と印刷費のプレッシャーに押され、「1冊でも多く手に取ってもらいたい」と焦るほど、本の本尊である「タイトル」が迷走し始めます。

AIにタイトル案を出させると、「〜の生存作法」「〜のための設計図」といった、どこかのビジネス書で見たような、読者を優しく包み込むマーケティング口調ばかりを出してきます。

「売らなきゃ」と焦るあまり、ついそういう“ウケの良さそうなタイトル”に日和りそうになるのですが、後で見返すと「いや、俺が書きたい本ってそういうお行儀の良い話だっけ?」と自分の違和感に負けてボツにする。

結果としてタイトルが決まらないまま、自作のコンパイラを叩くたび、立ち上がるPDFの本扉には「(仮題)」という文字が無情に印字され続けています。

まとめ:結局すべては「現場合わせ」で進む

文章を書きながら、自作コンパイラで全180ページの面付け(製本)を調整し、ノドの余白に悩み、サンプル1冊2,000円のレシートを眺め、部数と在庫の山に恐怖し、タイトルが決まらないまま締め切りに追われる。

本来なら順番に進めるべき「執筆・編集・製本・コスト計算・スケジュール管理」が同時に襲いかかってくるカオスの中にいます。

完璧でスマートな計画なんてものは最初からなくて、結局は手元にある道具を頼りに、押し寄せるプレッシャーや数字のリアルと付き合いながら「その場その場で帳尻を合わせる(現場合わせ)」のが、一番泥臭くて面白いのかもしれません。

9月13日の文学フリマ当日、無事に右綴じの文庫本が机に並び、いくらかの原価を回収できているか、それとも「(仮題)」のままダンボールの山を抱えて冷や汗をかいているか。楽しみです(笑)